オウム類の咬みつき行動と激しく鳴き叫ぶ行動
リズ・ウイルソン 認定動物看護士
コンパニオン・アニマルであるオウムにみられる問題行動の種類は非常に多岐にわたっているが、アマチュア・オウム行動学者が耳にする最も一般的な苦情は咬みつきと行き過ぎた鳴き声に関するものである。自然の中で静かにしている方がよいようであれば、極端に大きな鳴き声を出すこともないようである。しかし、捕獲された環境下ではけたたましい騒音を出すことで偶然にオウムが報酬を得てしまうことがある。野生のオウム類では群れの仲間との争いで、咬みついて攻撃することはない。したがって、咬みつき行動は本能的な行動ではないのかもしれない。しかし、飼い主たちは偶然にも攻撃的な行動に対して報酬を与えてしまっている。鳥に対して乱暴ではない訓練と行動の一貫した修正を通して、オウムがコンパニオン・アニマルとしてうまくやっていける方向に行動を変えることができる。
コンパニオン・アニマルとしてのオウムにおける問題行動の事例は、飼育数の増加に伴い急激に増加している。結果的によそにもらわれていったり、収容施設や保護区に入れられるオウム類がますます増加している(8)。幸い、飼い主の中には行動を治そうともしないで捨ててしまうという伝統にしたがわずに、行動コンサルタントに助けを求める人たちもいる。こういった飼い主はオウムが問題行動をおこすことが一般的だということがわかって安心したり、今の状況が必ずしもずっと続くわけではないということを知って救われた気持ちになったりするようである。オウムの飼い主たちの最も一般的な苦情は咬みつきと過度の鳴き声であり、この２つが動物を虐待したり、飼えなくなってしまったりする場合の原因の多数を占める。皮肉なことに、どちらの問題もある程度までは改善することができる。
問題行動の矯正：第一段階
ペットのオウム類の問題行動の解決は、常にオウムの制御を確立することから始められる｡オウムの行動を変えようとする前に、飼い主の方がオウムより十分高い順位にあるということをわからせなければならない。この段階が達成されないと、よい方向に解決する確率は低くなる。ブランチャード(Blanchard)の飼育誘導訓練法(3)はオウムを簡単に制御できる技法の1つであることがわかってきた。“上れ”、“下りろ”という単純な言葉の命令に反応するようにオウムを仕込むことで、人はオウムに対して支配的な地位を確立することができるのである。
明らかに多くの飼い主が思いこんでいることとは反するが、オウム類というのは人間の子供ではないのである。がしかし、たしかに有用な類似点は存在する。ちょうど小さな子供たちが学校に行きたいかどうか決定できないように、オウムにケージに戻りたいかどうかや飼い主の肩から降りたいかどうかといった行動に関して重要なことを決めさせてはならない。
“上れ”という命令は今すぐヒトの手の上に乗れという意味である｡“上る？”ではないことに注意してほしい。“下りろ”は逆で、鳥はすぐに手から止まり木やケージの上などの人工物の上に降りなければならないことを意味している。
オウムは毎日の短い（例えば10分間程度の）レッスンを通じて、これらの命令に反応することを覚える。訓練は“なじみのない”部屋で行わなければならない。“なじみのない”部屋というのは、オウムがどんな経験もしておらず、それ故、なわばりももっていない環境という意味であり、例えば、訓練場から鳥が自分のケージ、遊び道具、あるいはソファーがみえる場合は、なじみのない区域とはいわない｡レッスンは動物と飼い主の両者にとって明るく楽しいものであるべきである。オウムは退屈してしまうと正しく学ぶことはできない。ちょうど保育園の先生が小さな子供たちでいっぱいの教室でやるかのように、ふんだんに遊んだり、かわいがったり、ゲームをしたりをたくさんとりいれることで、オウムを積極的に訓練に参加させ続けることができる。オウムには、“上れ”と“下りろ”の命令で、手に乗ったり降りたりすることに加え、“上れ”の命令で一方の手からもう一方の手に飛び移ることも教えるべきである。これは“階段上り（laddering）”と呼ばれる訓練である(3)。
レッスンの間は、微笑みながらオウムを元気づけたり、肯定的な口調で話しかけるというご褒美を与えてやったりする。そうすると、オウムは正しく反応していることを知ることができるのである。何を要求しているのか、はっきりわかる信号を送ってやることによって訓練者は鳥が落ちこぼれないようにすることができる。このようにして訓練はヒトとオウム双方にとって結果を伴う、肯定的な経験になるのである。このような訓練ではオウムを手荒に扱うようなところはどこにもない。
オウムはヒトの表情を細かく注意深く見る。まだその理由はよく分かっていないのであるが、オウムはヒトの微笑みには肯定的な反応を示す。このように、微笑み、正の強化、楽しみを伴った建設的な手段によって、オウムはヒトの望むとおりに反応することを覚えるのである。暴力は一切用いられない。
ヒトから与えられた命令に反応するようにオウムを仕込むことによって、オウムを服従的な地位に置くことができるのである。結果的に、彼らは好意的に保護され制御されることで、ストレスの程度は軽減されることになる。オウムは何を期待されているか理解することによって、一貫した制御という明白な枠組みの中で、くつろぐことができるのである。
いったん命令に対し正確に反応するように完全に訓練してしまえば、オウムに毎日レッスンを行なわせる必要はない。しかし、飼い主はいつも言語による命令を使って、その鳥を扱いつづけなければならない。そうすることによって鳥の行動を制御し続け、その結果として、ヒトは支配的な高い順位を維持することができるのである。オウム類は頭のいい動物であり、生涯にわたって成長し変化し続ける。この成長の一部に、権威に対する挑戦がふくまれている。この行動は普通に予期される行動であって、訓練に成功したことが影響して起こる行動ではない。将来、抵抗にあったときにしなければならないことは、オウムに対して飼い主が支配的な地位にいることを再確認させるために、ただ日々の訓練を再び始めることだけである。そうすれば、抵抗することはなくなるだろう。適切な教育を受けた飼い主は問題行動が現れはじめるようになるまで待ったりはしない。子犬や子猫と同じように、やってよい行動というものを適切に教えてもらわないとオウムは、どうやってヒトとうまくつきあっていけばよいのかわからないのである。若い方が容易に制御を確立できるので、オウムを幼雛の時期から訓練すれば将来起こりうる問題を最も小さくできるだろう。
異常行動を引きおこす飼育管理
人間の場合と同じように飼育方法と医学的な問題は問題行動の原因となりうる。医学的な原因になりそうなものは、特に食餌と睡眠時間に関する問題点は、鳥の獣医によって重点的に特定されるべきである。ヒトの活動の中心に自分のケージがあっても大丈夫な他の社会的な動物と同様、飼われているオウムたちの多くは睡眠不足に苦しんでいる。羽を自傷することと同様に、咬みついたり、けたたましく鳴いたりといった問題行動の原因が睡眠不足であることもしばしばある。コンパニオン・アニマルとして飼われているオウムの多くは、赤道付近の地域が原産である。つまり、彼らは平均的な人間の家庭で与えられるよりも、眠ることができる暗期がもっと長い環境で進化したのである。オウムに夜間10～12時間の睡眠時間を与えると、行き過ぎた鳴き声や攻撃性は自然に消えてしまう場合がある。オウムのような猛禽類は同じ部屋でヒトが動き回ったり、テレビを観ていたりするときは、たとえケージに覆いがかけられていてもあまり眠ることができないようである。この問題のすばらしい解決法の1つは、“睡眠用ケージ”を使うことである。睡眠用ケージは通常のケージより小さなケージで、夜間、ヒトがいない部屋に置く。これを使用することで飼い主はヒトの幼児を扱うのと同じように、鳥をヒトより早く寝かしつけることができる(11)。
行き過ぎた鳴き声
オウムが極端にうるさいかどうかを判断するとき、問題が起こる場合がある｡飼っているオウムの鳴き声に問題があると考えている相談者の家で相談に乗っているときに、筆者にはその鳥はただ普通に鳴いているに過ぎないと思われることが再三再四あった。音に対する寛容度は人によってかなり異なるし、音に対する個人的な反応も同様にかなり異なる。その大きな声を使うと予想していなければ、大きな声だと思うのかもしれない。“正常な”騒音のレベルは種や個体によって異なる。しかし、（例えば猫、魚、は虫類、大多数の犬といったような）他のコンパニオン・アニマルを選んだ場合に比べて、オウムの声が大きいことは明らかである。バタンインコは日の出と日の入り時に騒々しく鳴くことが知られているし、コンゴウインコは一日中、断続的に窓を閉めるときに出るような音で鳴く。オウム類は騒々しい動物なのであり、そうでないと期待することが認識が甘いのである。“飼っているオウムに静かにしていることを教える”ことができると考える飼い主は結果としてうまくいかない。一般的に言ってオウムが毎日数回、15～20分間大きな声で鳴くという現象は正常なことである｡いっぽうで、一時に何時間も連続して鋭い声で叫びつづけるというのは正常なことではない。こういった問題行動が修正されないと、このオウムはコンパニオン・アニマルとして失格であるといった烙印をおされる。時間的な制約もしばしば叫び声の問題が複雑化する原因である。飼い主がお金がかからず効果の弱い“その場しのぎの”方法を求め、家族や隣近所、大家、あるいは地域の警察から最後通牒をつきつけられるまで、プロの助けをかりることを嫌がるということがよくある。しかしながら、飼い主がプロの助力を求めているということを知らせると、これらの苦情を訴えた人々の気持ちはなだめられることも多い。問題行動が起きるようになるまでには時間がかかっているのであって、それらの問題を解決するのにも時間がかかるのだということを、関係者全員が理解することは非常に重要である。一夜の奇跡などは起きないのだ。
段階的なアプローチ
段階的なアプローチがどんな行動の問題を修正するためにも必要であり、鳥の鳴き声に関しても例外ではない。第一段階は常に訓練である。上れ、下りろ、階段上りといった簡単な命令に反応するようにオウムを仕込むことによって、飼い主をより高い“順位”に位置づけさせる。
第二段階では問題行動の情報を収集する。何週間か日誌をつけることは飼い主にとって有益である。鳥が鋭く叫びたてるたびに、飼い主は以下の情報を記録するべきである。
時刻
曜日
月の相
そのとき起こっていること
鳥の周りの人々の様子
鳥の様子と鳴き声と密接な関係があるかもしれないその他の事項
日誌の目的は情報を集めて、その極端な鳴き声をたてることに関連したパターンがあるかどうかみることである。もし、パターンが見つかれば、飼い主は鳴き声を促している出来事を未然に妨ぐことで、鳴き声をすぐにもやめさせることができる。例えば、多くのオウムは来客があったときに極端に騒ぎ立てる。そういった鳥は客が到着する前に静かな場所に移して、（こういうときのためにとっておいた）特に面白そうな新しいおもちゃやごちそうを与えてやるのである。そうすると、そのオウムは幸福な時間を過ごすことができ、問題行動は決して起きることがない。
苦情を言ってきている隣近所の人々にも日誌をつけてくれるように頼むことも非常に有益なことである。そうすると彼らも、今や問題解決のための積極的な参加者であるということになるのである。
飼育者が鳥のたてるけたたましい音に対して意識していようがいまいが、オウムはすさまじい鳴き声をたてる。なぜなら、その行動により報酬（となるような反応）をすでに得てきているからである。第三段階では、予想外に与えられている報酬（となるような反応）を特定し減らしていく。報酬はさまざまな形をとって与えられる。飼い主は、鳥たちを静かにさせようと懸命に努力するのだが、餌をあげたり、ケージの外に出してやったり、あるいは抱き上げて運んでやったりすることで、逆に叫びたてることを促進してしまっているのかもしれない。極めて頻繁におこる強化は、行動学者が劇的反応による報酬（ドラマ報酬 drama reward）と呼ぶものである(4)。オウムは劇的な状況を非常に好むようで、人々が自制を失ってオウムに金切り声をあげるのは問題行動を促進してしまうだけなのである。
鳴き声の問題を解決するためには、そういったたぐいの報酬を与えることはやめなくてはならない。報酬というものはオウムにとってうまく行動できた場合にのみ与えられるものであり、うまくいった行動というのは消去できるものではない。この第三段階には、オウムに関わっている全員の全面的な協力が必要になる。もし1人でも好ましくない行動に報酬を与えるような反応を示していれば、多くの人々の目的に沿った努力は無駄になってしまうのである。
第四段階では、オウムの行動パターンを変え、それにオウムが慣れさせる。飼い主には、けたたましく騒ぎ立てることをやめさせる努力よりも、他の行動をとるほうがいい結果を得ることができるということをオウムに教える取り組みが必要である。例えば、騒ぎ立てるオウムに劇的反応を示したり、注目したりすることによって報酬を与えるよりも、その鳥が口笛を吹くような鳴声を出したり、しゃべったりするときに、惜しみなく褒めてやったり、注目してやったり、食餌をあげたりして報酬をあたえることに専念すべきである。これには飼い主の方でいくらか集中力を必要とするだろう。残念なことに、人々はオウムが行儀よく静かにしていると、オウムの存在を忘れてしまうのである。オウムは感情を表に出して周りの人々をいらだたせたとき、注目されるという報酬を与えられる。このような状況では、飼い主はやって欲しいことと全く反対の行動に対して、思惑外の報酬を与えていることとなる。
激しい鳴く場合の扱い方
飼い主は、けたたましく騒ぎ立てる現場に居合わせても、その音を完全に無視できるようにならなくてはいけない｡耳栓を使うのもよい手であるかもしれない。飼い主は鳥の注意を自分に向けたいときは静かに鳥の名前を呼んでやるべきである。もしも大騒ぎを続けるようならば、そのときは、相当に不機嫌な顔をしてみせて、その鳥に背を向けてしまうべきである。この方法では飼い主の不快感を表すのにオウム自身の身振りを使っているので、鳥は誤解しようがない。飼い主は鳥が静かになったらすぐに微笑むことで、惜しみない報酬を与えるべきである。そうすれば、その鳥はよいことをしたことを理解するだろう。いっぽうで、さらに大騒ぎを続けるような場合には、飼い主はもう一度不機嫌な顔をしてみせ、鳥に背を向け、その部屋から出て行ってしまうべきである。そのオウムは今まで学んで期待していることと全く反対に扱われることになる。鳥の立てる騒音に注目してやる代わりに無視し、結果的に孤独感を与えることによって対応するのである。
もし同じ部屋にいないときに鳥が騒ぎ始めたときは、不用意に好ましくない行動を強化しないということの他に飼い主ができることはない。大騒ぎに対してどんなに叱責しても、すでに行われている正の強化以上の結果は得られない。飼い主は叱責する代わりに大騒ぎが一時的にやむのを待つべきである。大騒ぎがおわった後、鳥が欲していた、かまってやることによる強化を行う。鳥がもしまた金切り声をあげれば、再び相当に不機嫌な顔をされ、独りでいさせられるのである。よい行動をしたときは相手をしてやり、望ましくない行動をしたときには無視するということを飼い主が一貫して続ければ、鳥は行動を修正しはじめるだろう。けたたましく騒いだとしても、相手をして貰える代わりに今や独りでほっておかれてしまうのだ。訓練をはじめる以前に、叫びたてる行動に対して注目することで報酬を与えられている場合は、オウムが行動パターンを変えなければならないということを理解するまでには、いくらか時間がかかるだろう。とはいうものの、飼い主が我慢強く一貫した対応をとった場合には、劇的な改善が起こるだろう。
オウムは生まれつきかなり活発な動物であるので、一貫した訓練や調教に加えて高い活動レベルに合わせたエネルギーのはけ口を見つけてやる必要がある。獣医行動学者によると、犬の問題行動のほとんどは日々徹底的に運動させるというだけの簡単な処方で劇的に軽減されるということである(アン・ベベAnn Bebe、ハーカム大学における動物行動セミナー、1997年)。同様のことがオウム類にもあてはまる。羽ばたき運動をさせたり、荒々しく熱心におもちゃで遊ばせたり、シャワーでびしょ濡れにしたりすることで、生まれつき持っているエネルギーを簡単に別の方向に向けさせることができる。普段叫びたてる行動が続発する時間の直前にこれらのことを行えば、最初から騒ぎ立てたりできないようにさせることができ、例えば自宅でやる夕食会も騒音で邪魔されるということはない。
葉や樹皮が丸々ついている安全な枝、紙コップ、アイスキャンディーの棒、綿棒などの壊すことができるものもオウムを夢中にさせて、静かにさせておくことができる。こういうものを使うこととおもちゃを買い続けることによって起こりえる浪費を抑えることができる。古い電話帳を与えておくと、完全に小さくばらばらにしてしまうまでの数週間、オウムは気晴らしができる。知能の高いオウム類に興味を持たせて夢中にさせるためには、おもちゃは頻繁に交換してやるべきである。毎週、ケージと遊び場を替える際には、おもちゃの1つを、その鳥が少なくとも二週間は見ていない別のおもちゃと取り替えるようにしたい。その他のおもちゃも一緒に移動してやる。そうすれば鳥にとって興味深い生活がずっと続くことになる。しかし、このおもちゃを順繰りに使うやり方は非常に臆病であったり、かなり緊張していたりするオウムでは、さらに怯えさせてしまう可能性があるので、好ましい方法ではないだろう。こうしたタイプのオウムではもっと控えめにおもちゃを交換していくやり方のほうがうまくいくだろう。
咬みつき行動
咬みつき行動は本能的な基盤がないため極端に騒ぎ立てる行動よりも抑制することが容易である｡野生のオウムの観察によると嘴は採食や羽繕い、社会的な交流を図るために使われるが、群れの他のメンバーに対して武器として使われることはない。野生のオウム類は、群れのメンバーと対立している状況を表現するのには、複雑なボディ・ランゲージや羽のディスプレーや鳴き声などを使う。暴力に訴えることはない(マイケル・シンドリンガーMichael Shindlinger、カルフォルニア州サン・ホセでの愛玩鳥類セミナー、1999年3月)(7),(9),(10)。もしも咬みつき行動が本能的な基礎を持っていないとしたら、それは学習による行動であるに違いない。
先ほどもでてきたが、ドラマ報酬が攻撃行動を誘導する第一の方法となる。新たにオウムを飼い始めた人の多くは、オウムは嘴を武器としてより、手として使っているということがわかっていない。あの大きな嘴を警戒してオウム類が嘴を伸ばしてきたときに手を引っ込めてしまうことがよくある。そしてこのことが、経験のない飼い主が若いオウムを手の上に乗せようと手を差し出すときに起こる問題の原因となる。不安定そうだと感じた若いオウムはその手を安定させようと嘴をのばしてくる。それは職人がぐらぐらするかもしれないはしごを安定させようと、手を伸ばすのに似ている。咬まれることを恐れてその手は引っ込められる。この操作が繰り返し行われることで、若いオウムは2つのことを学ぶ。1つ目は、もし、このためらいがちな手に登りたいと思ったときには（雛鳥はたいていそう思う）、その手が引っ込められる前に、素早く掴まなければならないということ。2つ目は、自分の嘴で人間を制御できるということである。もしこのパターン化が進行すると（たいていそうなる）その雛鳥はある時点で人間が好む強さよりももっと強く手を掴むようになるだろう。もし、その行動自体がドラマ報酬を与えられると（例えば“痛いっ、悪い鳥だ、咬んではいけません”）、その若いオウムは“咬む鳥”への道を着実に歩みだすことになる。その出来事をドラマ報酬によって強化するのではなく、飼い主はその雛に厳しい顔をして、非常に静かに、しかし否定的な調子で“だめ”というのである。理由はよくわからないのだが、ヒトがしかめ面をしていると雛鳥はヒトが不機嫌であることを悟り、（偶発的に起こった）咬みつき行動に対して報酬が与えられないことになる。オウムの雛鳥は好奇心が旺盛で嘴を使ってあれこれ探索する。（特に他の幼いオウムたちとは離れて一羽で育てられたときは）乱暴に振る舞い過ぎても、鳥たちにはそれがわからないのかもしれない。幼雛はおどろくほど好奇心が強く、幼雛にとってヒトの指は非常に魅力があるようである。オウムの雛鳥の嘴を使った行動が乱暴過ぎるときはしかめ面をして静かに“だめ”と言えば、恐らくその娯楽に終止符を打つことができるだろう。そうしていく中で、どういう行動がやってもよく、どういう行動がやってはいけないのかということに関して、ヒトが望んでいることをはっきりとオウムに示すのである。しかった後は、その鳥には足で遊べる楽しいおもちゃを与えてもかまわない。それにより生まれつきもっている活力に健康的なはけ口をつくってやるのである。
咬みつき行動の扱い方
咬みつき行動を抑制する第一歩は、飼い主にオウムを躾る時間を作ってもらうことである。特に咬む鳥が年をとっているほど、訓練する場所がなじみのない場所であるということが重要になる。オウムのような猛禽類にとって、安全かどうかということは重要なことである。だから、なじみのない場所では、なじみのあるただ1人の人間を敵に回したくないと彼らが考えるのは、理にかなったことである。結果として、飼い主はいつもより確信をもって鳥を扱え、しっかりと鳥を制御できるようになる。またオウムもいつもよりもっと飼い主に従順になる。はじめての場所という魔法が、診察室でも起こりえる喜ばしい小さな奇跡の秘密である。いつもは気が荒く、手に負えないオウムが世界一かわいく抱きしめたくなるような鳥に変貌するのをみて、飼い主が驚いて狂喜することがある。残念ながらこれは一時的なものであり、いったんなじみのある場所に帰るとその同じ鳥はいつもの悪い鳥に変身してしまうのである。しかしながら、この束の間の休息によって、自分の鳥が再び乱暴でなく従順なペットになる可能性があるのだという希望を飼い主に十分に持たせることができる。獣医と動物看護士はこの機会を使って、飼い主にオウムの行動の専門家に相談することでかなり利益を得ることができるのだと思ってもらえる。
咬み癖は鳥の飼い方にさまざまな面で影響を受けている可能性がある。例えばケージや遊び場の位置や高さはオウムの行動に強い影響を及ぼしうる。ケージをヒトの出入りの激しいところに置くと、オウムは家族が通り過ぎるとき、その家族の誰かに突進したり咬みついたりすることがよくある。同じことが、ドアのついた壁に接してケージが置かれている場合によく起こる。飼い主はこの状況では鳥が、ケージの傍の絶え間のない人通りに過剰に刺激され続けたり、急に部屋に入ってくるヒトに繰り返し驚かされたりしていることを理解する必要がある。飼い主は、オウムは怖いと思うとしばしば攻撃的な反応を示す猛禽類であることを忘れないようにする必要がある。ケージの置き場所を変えるとこれらの問題は軽減されるかもしれない。例えば、飼い主はまさにヒトが横切る往来の真ん中にではなく、ヒトが部屋に入ってくるのが見える奧の壁やヒトと身近にいれる頑丈な壁の方へケージを移してやることができる。
問題行動防止のために身振りを観察する
ほとんどのオウム類は攻撃する前に独特のボディ・ランゲージや羽の位置による意思表示をしている。飼い主はこのことを知っているとオウムの行動を予測して咬まれないようにすることができる。経験の豊富な調教者によるとオウム類は意思疎通を図る方法がもう他にないときにのみ、咬む行動に訴えるのだそうである。例えばオウム類は、かまって欲しくないときは脚を上げてヒトを遠ざけようとするだろう。もしこの警告行動を無視したり的外れな反応をしたりしたときは咬まれてしまう。（特に咬み癖のある鳥の）飼い主は、飼っているオウムを注意深く、細かく観察することを学ばなければならない。そうすれば咬む行動が起こる前に予測することができる。経験を積んだ調教者は、鳥と目線をあわせて静かにしかし厳然と
“いい子にして”などと言いながら手や指をあげて警告することによって、しばしばこの暴力的な行動をやめさせることができる。オウムが咬むために目をそらすということはほとんどないだろう。
咬み癖のあるオウムに対する暴力的でない叱り方
オウムが咬んだときに調教者が使うことのできる暴力的でない対応方法は数多くある。しかし効果的に行うには、その対応は鳥が咬んだ直後に行わなければならない。鳥が手や腕に止まっている場合は、鳥に一時的にバランスを失わせることにより躾る2つの手法がある。この手法を使うときには鳥が落ちないように気をつける必要がある。もし鳥が落ちたりすると信頼関係が損なわれるかもしれないからである。1つはアサン(Athan)の“震え矯正法”（Wobble
Correction）で、手や腕を少しだけ旋回させる(2)。もう1つのデイビス(Davis)の“小さな地震法”（Little Earthquake）では手や腕をほんの少し落下させる(6)。一貫してこれらの方法を実施すれば、オウムはすぐに咬むこととバランスを失うことを関連させて考えるようになる。バランスを失うのはオウムにとって少しも楽しいことではないのである。どちらの手法も少しでも力を使ってやったなら、鳥はパニックになり、落ちまいとして飼い主の手や腕の肉を掴んでしまうことを、飼育者は分かっていなければならない。こうなった場合には躾が全く行われなかったときにおこりえたよりももっとひどい怪我を負うことになる。飼い主は叫んで劇的な状況をつくることによって、その鳥に報酬を与えてはいけない。また、鳥を決して落としてはならない。
厳しく叱る必要のある場合、その他の手法には前に述べた梯子上りという運動がある。訓練で行う場合も叱る場合もオウムの動きは同じである。違いがあるのは飼い主の表情と声の調子だけである。いつもの訓練時の陽気で親しげな声よりもむしろ静かではあるが非常に否定的な調子の声を使わなければならない。オウムが5～6回手から手に飛び移るにつれて、この声と非常に否定的な表情を併用してやる。鳥が命令に従ったときは、飼い主は声を否定的な調子から、中立的、肯定的な調子に変え、最後に“いい子だ”と言ってやるのである。その後、オウムを止まり木に止まらせ、飼い主は（必要なら）彼らの心の傷の手当てに気を配ることができる。命令に従った鳥には叱責することをやめ、（例えばケージに閉じ込めるといった）罰を与えるのもやめる。鳥は梯子上り行動をしている間は、いわれたことをそのとおりやっているのである。言われたとおりの梯子上りをやった鳥をケージに閉じ込めるのは、言われたとおりに行動したことに対して罰を与えていることになるのである。適切に梯子上り行動をさせられた鳥が非常にしょんぼりしていることからも、この手法は攻撃的な問題行動をとるほとんどのオウムに効果的であることが分かる。この手法で厳しく叱られた鳥は同僚の目の前で上司に叱責された人のようにみえ、とても打ちのめされているように見える。
鳥が非常に咬む場合や飼い主が咬まれることを恐れている場合は、鳥の背後から梯子上り運動をさせるのも、一時的な手段としてはよいかもしれない。オウムはそれが何であれ目の前のもの（例えば飼い主）に気をとられているときは、手を後から近づけてしっかりと中足骨を押すとたいてい後ろを見もしないで、押した方の手に乗り移ってくるだろう。そのとき鳥は、まるで止まり木に止まっていると思っていて、飼い主の一方の手からもう一方の手に移ったということはよくわかっていないようである。攻撃的な行動に対してどのような処置をとるかはその鳥の個性によって変わってくる。賢明な方法としては、軽い叱責には不機嫌な顔をみせる方法や震え矯正法、小さな地震法などを使い、必要であれば梯子上りまでレベルをあげてゆくのがよい。
高さによる優位性について
オウム類の高さによる優位性については多くの記述がなされてきた。遊び場やケージを目線より低くすると問題行動がなくなると考えているひとも多い。実際のところ、オウムが目線より高い所にいることを許しても問題が発生することはないかもしれないが、そのことがすでに存在している問題を悪化させる可能性はある。言い換えれば、適切な訓練を受けた、いうことをきくオウムは、ヒトより高い所にいても命令に従うだろう。いっぽう、いうことをきかないオウムは目線より上の高さにいくほど、顕著にわがままになる。オウムはヒトを背の高さで順位付けするかもしれないが、子供に対しては大人よりもかなり下位に順位付けするようである。場合によっては、単にヒトが高い位置にいるだけで一時的に問題行動を軽減できることもある。例えば、台を高い遊び場の隣に置けば、背の低いヒトでもオウムの高さまで届くことができ、オウムをうまく制御できるようになることもある。
いっぽうで、オウムを肩に乗せてしまうことは、経験のあるすべてのアマチュア・オウム行動学者が同意するように問題である(1),(5),(6),(13)。飼い主は、普通は許してしまいがちなこの行動にはかなり気をつける必要がある。どんな場合でもオウムが肩に乗るのを許すべきではない。一般的に、ヒトの顔を激しく咬む行為は飼い主がオウムを放逐する原因の1つである。オウムが肩に乗せる行為は、その危険性を大いに高める。加えて、耳のそばでオウムが叫び声をあげると、容易に聴力が障害されてしまうこともある。またオウムは肩に乗っているときは制御できない。肩に乗っていると、オウムは
“上れ”命令を勝手に無視して飼い主の背中のほうにさまよい歩いていってしまうこともある。
まとめ
咬みつく行動とけたたましく鳴きたてる行動は、コンパニオン・アニマルとして飼われているオウムでは普通にみられる行動であるが、これらは矯正することができる問題でもある。方針が明確で暴力的でない訓練をうけさせ、命令、制御、制限をオウムの行動に対して一貫して与えていくことによって、オウムはヒトとうまく生活していく術を学ぶことができるのである。